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この人のすてきなこと
藤本一馬&林正樹
「時に連れて花ひらく、Unfolding in Time」インタビュー
ビル・エヴァンスとジム・ホール、パット・メセニーとライル・メイズ、カルロス・アギーレとキケ・シネシ、そして藤本一馬と林正樹。ピアノとギターのデュオが生み出す親密なハーモニーは、いつの時代もわたしたちの心を熱くします。
ふたりの作曲家、ギタリスト藤本一馬とピアニスト林正樹、初めての共演から12年、数えきれないほどの共演を重ねてふたり名義のデュオ・アルバム『Unfolding in Time』を制作することになりました。デュオでのツアーを行ったり、東京でコンサートを開催したりといくどとなくデュオ演奏をしているふたりが、どのようにこのアルバム制作に至ったかお話を聞きました。
藤本一馬(以下K) 何か「さぁつくるぞ」というようなことはなく、自然な流れでスタートしたんです。いつかデュオ作品をつくりたいねとは話していのですが、自分たちが関わるいろいろなプロジェクトが進行しているので具体化せずにいました。2022年から2024年にかけてデュオで全国ツアーをしたり、舞台のためのデュオ演奏が続いたりとふたりで演奏する機会が増えてきて、長く一緒にいるなかで「そろそろつくってみよう」という話になったのが2024年夏ごろのことです。
林正樹(以下M) 林正樹(以下M)アルバムを作るからと言っても特に構えすぎず、ふたりで演奏したい曲を持ち寄りました。一馬くんが5曲、ぼくも5曲で結果的には半分ずつそれぞれの曲を録音することになりました。ぼくの5曲の中に「Trail of Time」(「時の軌跡」という意味)という新曲があって、一馬くんの方も今回のアルバムのために新しく書いてくれた曲のひとつが「Unfoldingin Time」(「時に連れて開く」の意味)でした。「時間」は決して戻ることができない、だからこそ尊いものであるという感覚は、今回のアルバムのテーマとしても捉えることができたので「Unfolding in Time」を今回のアルバムタイトルにどうかと提案しました。
K:もともと“Unfolding”のイメージは、花が時間をかけてゆっくりと開いていくようなイメージだったんです。でもこの曲がタイトルチューンになって、マサちゃんと最初に出会ったときから、心が通い合うような気持ちをずっと感じていたのだけれど、デュオ作品をつくるまでにおよそ12年かけてきたんだなぁと、このタイトルがその時間と想いに重なるようになったんです。
M:一馬くんの曲は楽曲そのものの素晴らしさはもちろんのこと、タイトルからも音楽への誠実さを感じるし、それが僕にとって演奏のインスピレーションになることはよくあるのですが、タイトル曲の「Unfolding in Time」は自分でもとてもいいテイクを収録できたと思っています。
– そのほかの曲についても教えていただけますか?
M:自分のソロアルバム『Lull』にすでに収録している「Values」は、デュオでの演奏を重ねるうちに自由度が増してより深い形に進化を遂げていったので、今回の作品にも収録したいと思った一曲です。そのほかの曲は未収録のものばかりです。ほかのアルバム制作やコンサート活動の合間に常に作曲はしていて、「Ai」は、50音シリーズ (注1) からの曲で、ピアノソロで弾くことが多かったのですが、これはぜひ一馬くんと一緒に演奏したいと思ってレコーディン
グの少し前に決めた1曲です。「Cage」は半分お蔵入りしていた曲だったんですけど、歪ませたギターの音色で演奏してもらった一馬くんならではのクールなアプローチが最高で、このアルバムの中でもいい意味でスパイスになりました。
(注1)林正樹さんが20年以上続けているあいうえお順の文字から言葉を抜き出しタイトルとする作曲活動「ソたち」「伝手(つて)」「戸」などがある。
K:このアルバム収録曲のなかでおそらく最後にできたのが「First Glimmer」で、「初めの煌めき」という意味です。2025年の1月にアルバムのレコーディングが決まっていたなかで、2025年の新年入ってすぐにひらめいて作曲した1曲です。その年の初作曲だったので「初めの煌めき」と名付けました。この10年ほどアコースティックギターに加え、エフェクトを使用したエレクトリックギターも導入してきたので、この曲はエレキのアンビエントな響きとアコースティックピアノとの混じり合いで、かすかな光が煌めいているようなイメージでもあります。レコーディング直前のライブ演奏初めて演奏し、そのままレコーディング本番に臨んだ曲ですね。
– 曲のアレンジはどのようにして組立てていますか?
M: このふたりのプロジェクトにおいては、構築しすぎるアレンジは少ないかもしれません。相手がつくった楽曲をしっかりと理解したうえで、自分たちが感じるままに演奏しているうちに自然とふたりならではの世界が見えてくる。こんな風に音を合わせながら一緒に曲をつくりあげることができる音楽家はほかにあまりいません。どの楽曲も最終的にはふたりでつくりあげた曲、というような感覚を持っています。
K:互いの曲を理解するためのリハーサルや、ライブで合わせたりして曲の感触を掴んでいき、お互いが自由に演奏してレコーディングしています。ふたりでいるから引き出されているぼくのアプローチというのもあります。
– これまでのふたりの Trail of Time(軌跡)を教えてください。
M:2013年、鬼怒無月さんのお声がけでライブハウス『晴れたら空に豆まいて』で初共演しました。それまでにお互いのことはすでに知っていたし、ようやく一緒に演奏できましたね、という感じでした。
K:⻤怒無月さんとのトリオでの初共演に続いて、Quiet Dawnという企画でブラジルからアントニオ・ロウレイロをフィーチャーしたバンドなど共演が続きました。当時の東京にはジャンルにとらわれずにさまざまなアーティストがいろんな場所で共演するような機運も上がっていて、素晴らしい機会をいただけたことが有り難かったです。初めての共演でマサちゃんと音を合わせた瞬間はビビッとくるというか、シンプルに好きな音だ!と感じました。そして楽曲やピアニストとしてだけでなく、林正樹という人の中にある音楽の核のようなものに魅了されましたね。演奏後、数日あたたかさに包まれてました。
M:それまで一緒に演奏する音楽家はジャズの分野の人が多く、少しバックグラウンドの違う一馬くんとの音の合わせ方が、それまでに体験したことのない感覚でとても心地よかったんです。時が経つにつれて音楽の好み、考え方は実はとても近いふたりだと今はわかってきました。一緒に演奏していると常に“ふたりで音をつくっている”という感覚になれるので、それが本当に新鮮で、特別な関係なんだと思います。
-その後、2015年の林正樹さんのアルバム『Pendulum』に一馬さんが参加して2曲をデュオで収録。翌年の藤本一馬さんのアルバム『Flow』に正樹さんが参加、どちらもスパイラル・レコーズからリリースされたジャンルレスの美しいアルバムです。
K:この2枚のアルバム制作で、マサちゃんとぼくのコラボレーションというか関係性が一段進んだと思います。ふたりの音楽が一段深くなったと言いますか。ただ、『Flow』をリリースした後、ツアーをする間もなくぼくが約3年渡米したんです。なので活動が断続的になった期間もありました。でも帰国後は継続的な共演で、Kazuma Fujimoto Quartetとしてベース⻄嶋徹さん、ドラム福盛進也くんとの4人での演奏が始まり、また林正樹グループとして、マルチリードの鈴木広志くん、バイオリン吉田篤貴くん、ベース&チェロ須川崇志くん、そして福盛進也くんと共に作ったアルバム『Blur The Border』の録音など、ふたりでの共演の密度も増していきました。そんななかで、2022年にはデュオツアーで全国11箇所を回りました。そのころから折りに触れてデュオ・アルバムをつくりたいねという話をしていました。そして、2024年にはマサちゃんが音楽監督の舞台での演奏をふたりのデュオで東京と大阪の18公演の開催があり、そのサウンドトラックも制作したんです。そのなかで次はふたりの楽曲のみで構成するオリジナルのデュオ作品を作ろうと、デュオアルバムの制作が決まっていく流れもありました。
-一馬さんは林正樹さんのことをマサちゃんと呼ぶんですね。
K:そうですね。もう長らくずっとこの呼び方ですね。
M:初めて共演して間も無く、ぼくの自宅でリハーサルしているとき、「林さんのこと、マサちゃんって呼んでいいですか?」と聞かれて、すぐに「いいよ」と答えました。きっと一馬くん流のコミュニケーションの取り方なんだろうと思って。
-正樹さんのことを「マサちゃん」と呼ぶミュージシャンはほかにもいるんですか?
M:いませんでしたが、かずちゃんの影響で少しずつ増えつつあります。(笑) あ、ぼくはかずちゃんと呼んでいます。
-最後に2月の公演に向けてひとことお願いします。
M:ぼくたちの共通項として、「いい音を届けたい」というのが根底にあります。そうするには、楽器の音色、お互いの音をきちんと聴き合ったうえで自分の音色を出すという当たり前のことが必要なんですけれど、場所が変わるとピアノはもちろんのこと、音の響き方が違いますし、それによって自分自身の音の感じ方も変わるので、会場ごとに違った演奏になるんです。
音楽そのものが変わるわけではありませんが、会場から受ける影響は大きいということです。そういう意味でも、教会で演奏することはとても楽しみで、お互いの楽器の鳴らし方をお互いに感じながら音を紡いでいくので、そこでしか感じられないスペシャルなサウンドになると思います。
K:アコースティックな響きを大切にしているので、今回はPA機材で音を増幅することなく、生のピアノと、生のギターとぼくが音づくりする生のアンプの音で、教会の音がどのように響き合うか楽しみにしています。アコースティックギターはもちろん、エレクトリックギターでもアンプのスピーカーの“アコースティックな響き”を出したいと考えています。お互いの楽曲をまたこの場所だからこそ生まれる演奏と、ピアノとギターで音の余韻まで感じて頂けるような空間や広がりをつくれたらと思っています。
Interviewed by Mika NAKASHO and Hiroshi YOSHIMOTO / resonance music on 5th January 2026
resonance musicでは2017年に林正樹さんの『Lull』のリリース・ソロコンサートを大阪・天満教会で開催しました。それは美しい響きの印象深い時間でした。藤本一馬さんとはわたしたちがresonance musicを始めるずいぶん前からのお付き合いで、ふたりのコンサートの開催は、わたしたちにとっても“Unfolding in Time”な出来事だと思います。
教会という美しい響きを持つ空間で、できるだけアコースティックな感覚で「ふたりの音」を鳴らしたいという藤本一馬さんと林正樹さんのデュオ演奏。どんな音の世界になるのかを、感じに来ていただけることを願っています。
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藤本一馬&林正樹 Undolding in Time【大阪公演】
日時:2026年2月20日(金)
18:30開場 19:00開演
出演:藤本一馬 Guitar、林正樹 Piano
調律:Atelier Pianopia 小川瞳
会場:大阪 日本キリスト教団 島之内教会
大阪市中央区東心斎橋1-6-7
※地下鉄 御堂筋線「心斎橋」心斎橋筋出口(大丸側)徒歩約7分、
料金:5,000 yen (Tax in )
お申込:オンラインチケットLivePocketにて
https://livepocket.jp/e/260220_kazuma_masaki_osaka
*ご購入・決済・キャンセル等の注意事項については、「
*とても静かな演奏がございますので、未就学児のご入場はご遠慮いただいております。
主催:resonance music

Photo by Nobuaki Murakami , live at Gallery Seikoin-shita



