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この人のすてきなこと

Mori Yuni and Gen Tanabe Live at BEAU PAYSAGE vinyards on 24th May 2020 Photo by Ayaka Narahata

森ゆに 田辺玄『2020』アルバムについて、
おふたりにお話を伺いました。-前編-

今までに体験したことのない大変な年、2020年。その年の終わりに森ゆに&田辺玄のデュオアルバム『2020』がリリースされました。このアルバムは、『アトリエヨクト』のデザインによるCDサイズのウォールナットの木製のリム皿が1枚と13曲のダウンロードアルバムがセットになった作品です。プロデュースはBEAU PAYSAGE(ボーペイサージュ)。 

このアルバムについて、森ゆにさんと田辺玄さんにお話をうかがいました。

ホールに響く美しい声の曲「a cappella」で始まる、優しい静けさをたたえるアルバムは、一人ひとり異なるいろいろな体験をした人々の心にすっと染み込む静謐なアルバム。これは2020年5月にボーペイサージュの畑とセラーで開催された配信ライブがきっかけで誕生しました。

昨年4月、日本全国に緊急事態宣言が出されて人々は未知の感染症に怯えてステイホームを始めました。5月に八ヶ岳高原音楽堂で開催される予定だったボーペイサージュ企画の演奏会も中止、世界が沈黙するような気配に包まれました。

そんな中、ボーペイサージュの岡本英史さんは今できることを模索して、『Waltz for BEAU PAYSAGE』で繋がりのある森ゆにさん&田辺玄さんに声をかけ、中止となった演奏会が開催される予定であった週末(2020年5月24日)に、インスタライブを開催することになったのです。

__IMG_7544『2020』森ゆに、田辺玄 with BEAU PAYSAGE(ダウンロードアルバム、アトリエヨクトの木皿付き)3,860円(Tax in)

◇ぶどう畑でのライブ配信

田辺玄(以下G):去年の春に緊急事態宣言が出て、ボーペイサージュのインスタアカウントが始まり、とあるインスタライブを見たボーペイサージュの岡本さんは、その場にいなくても共有できることの可能性を感じたそうです。

5月にorbeとして参加する予定だった八ヶ岳高原音楽堂の演奏会も中止となり、アーティストをはじめ飲食店やそのほかのさまざまなお店が活動できない中、ボーペイサージュのアカウントでインスタライブをしてほしいというオファーをいただきました。

どのような形にするか試行錯誤した結果、ミュージックチャージは視聴者に委ねる形になりました。ライブは誰でも見られるけれど、視聴者はよく行っているお店のものを何か購入して支援をするという自発的な行動に任せるスタイルでした。

resonance music(以下rm):最初インスタライブのオファーを受けたときどう思いました?

G:あのときはあらゆる演奏会がなくなって、人となかなか会えない感じだったので、集まって演奏するということ自体がとても特別な気がしました。

rm:そうですね、3月ごろからすべてのコンサートが中止になっていましたよね。

G:家も出ちゃいけないというような雰囲気で、この先いつまでこれが続くのかな、と閉塞感を感じていたので、演奏すること、人に会うことが新鮮な気持ちでした。

rm:畑での演奏が素晴らしかったですね。

G:畑で演奏したいというのは岡本さん含めて3人で話しているときに自然に出てきたアイデアで、自分たちもぜひやりたいと思っていました。ただ昼間はとても風が強いので、本来1回だけのライブ配信の予定でしたが、風のない朝に畑で、お昼時にはボーペイサージュのセラーから配信しようということになりました。

rm:当日のライブはとても音が良かったのですが、何か設備を入れたのでしょうか?

G:あのライブに合わせて、スマホで使えるオーディオインターフェースを準備しました。マイクを自分たちの近くにセットして、カメラは4mぐらい離れた場所に置いたんです。その手法で配信できてよかったです。せっかくライブをするのであればいい音で聴いてほしかったので。

rm:畑で演奏してみていかがでしたか?

森ゆに (以下Y):コロナであるなしにかかわらず、「畑で演奏する」ということは今までにない特別なことで、楽しかったです。朝8時の畑は、鳥の声が聞こえたり、朝日が差してきたり、演奏している間に空気が変わったり、本当に気持ち良かったです。

G:本当に気持ちが良かった。息が詰まりそうな日々を、自分たちだけでなく見ている人も送っていたと思うんです。周りには人はほとんどいないけど、なんとなくみんなが繋がっているというのも感じました。

__DSC09205Photo by Ayaka Narahata

__DSC09257Photo by Ayaka Narahata

◇アルバム『2020』のはじまり

rm:その日に『2020』の話があったんですか?

Y:ライブを終えて、岡本さんの自宅にうかがったんですけど、その場で岡本さんから提案がありました。年末ぐらいに今年を振り返る、心が休まる作品ができますか、と。岡本さんは日本だけでなく感染が広がるヨーロッパにも心を痛めていました。

rm:作品についての具体的なオファーはありましたか?

G:その日のライブの感触がとてもよかったので、ふたりでつくってほしいというリクエストだけいただきました。けれど内容はわたしたちにおまかせしますよ、ということでした。

その日も、どういう作品をつくってほしいという話よりも、その時の感染による影響や世界の状況について、それについて何を思い何ができるかなどをいろいろと語り合いました。

具体的にこうしてほしいというリクエストはなく、そのときのコロナの状況について、それぞれの気持ちについて、語り合ったことを踏まえて、作品づくりをしていったという感じですね。

rm:どんな話をされたのでしょう。

G:2020年の年末もあまり状況は変わっていないだろう。これだけ悲惨な状況だから、祈りになるようなもの、日本だけでなく世界中の支えになるものをという思いを聞きました。

音楽的な部分での、言葉でなく声によるもの、もっとパーソナルで身近な作品をつくりたいということは、自分たちから話をして、思いが一致したという感じです。

「言葉でなく声」というのは、コロナに関わらずここ数年思っていたことなんです。あまり言葉が出てこない時期があったというか。

Y:去年の中の自分の感触として、あのときの状況は立場によって感じ方は全然違うなと感じたんです。だから特定の歌詞にのせるより、声という感じの方がいいと思ったんです。

rm:確かに立場によってみんな考え方が違いましたね。歌詞があるとより具体的なメッセージになってしまうことがありますよね。

Y:声だけだと受け取り方の自由度が高まるというか。なので歌詞は今回ほとんどないんです。

rm:初めてのデュオをつくろうという心境の変化は?

G:これもタイミングだなと思います。彼女は「森ゆに」というアーティストとして完結した活動をしてきているので、そこに自分が音楽家として入り込まないように心がけていました。

ただ奇しくも、というかこの状況で自分たちの距離の近さを意識したこともあり、やらなくちゃいけないという使命感よりは、岡本さんに声をかけてもらったことで、いまならふたりでつくることに何か意味があるのかもしれないなと感じました。

Y:畑でライブをするということはピアノがないので、玄さんのギターとわたしの声での演奏になります。その演奏がとても気持ち良くできたと感じていたときに、岡本さんが作品をつくってほしいと声をかけてくれたので、自然な流れでやろうと思ったんです。

rm:すべては自然な流れだったんですね。

Y:今こそふたりで!というのはぜんぜんなかったです。(笑)

絶対にふたりではやりません、というのもなかったですし。いまの流れが岡本さんとの関わり合いも含めていいタイミングでした。

rm: もしコロナがなければ、この作品はなかったかもしれませんね。

Y:なかったと思います。

G:まずつくっていませんね。(笑)

いままで、東日本大震災のときもそうだったんですが、何かあったときに“音楽家として何かしなくちゃ”とか“何ができるだろう”と表現に向かっていく選択肢をあまりとってこなかったんです。今回もコロナがあったから奮い立ってつくるというよりは、自然な流れだからできたと思います。あまり考えすぎていたら逆にできなかったかもしれません。岡本さんの強いイメージで導かれたのではなく、もっと自然な流れで気づいたら作品づくりを始めていたというような感じで、それがよかったんだと思います。

rm:具体的にはどのように作品づくりを始めましたか。

G:コロナ以前からイメージしていたものがありました。「余白のある」「想像を巡らせられるような」音数の少ないものがつくれるといいねと、ふたりで話していたことはあるんです。それは具体的な作品づくりの話ではなく、何かそういうものがあってもいいよね、というような話ではあったんですが。

「表現としてこんなものがつくりたい」という気持ちと、「いまこの状況だから意味があるもの」のタイミングが合致していたんです。

以前からぼんやりとイメージができていたので、いまつくるならこの作品なんじゃないということになりました。

『2020』は、ダウンロード作品で、CDの代わりに木のお皿が入っています。岡本さんからの、自然に還る素材でつくりたいという気持ちと、『アトリエヨクト』さんと一緒に何かできないかといいうことで、木のお皿になりました。タイトルについても、一般的に音楽はタイトルに年号を載せることはあまりないんですが、ワインには年号がついていて、その年の話をしますよね。岡本さんと一緒につくる作品ということもあり『2020』に決まったんです。まさに2020年ヴィンテージの音楽なんです。

__DSC09323Photo by Ayaka Narahata

__DSC09205Photo by Ayaka Narahata

つづく。森ゆに 田辺玄『2020』インタビュー  Part2を読む

『2020』森ゆに、田辺玄 with BEAU PAYSAGE
ダウンロードアルバム、アトリエヨクトの木皿付き 3,860円(Tax in)
【Track List】
01. a cappella
02. palm-1
03. meku
04. 雨明かり
05. 庭へ出て
06. #166
07. ki ulnu
08. 美しい風景
09. tone
10. etude
11. ひかりのまど
12. palm-2
13. largo

森ゆに Official Web

田辺玄 Official Web

BEAU PAYSAGE インスタグラム

アトリエヨクト Official Web

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